東海大学と付属福岡高校が、9月23日に福岡高松前記念体育館で開催された「玄海旗中学生柔道大会」(主催:学校法人東海大学、福岡県柔道協会)に、ポーランド・ウクライナ柔道選手団を招聘。大会に先駆け、15日に役員・中学生選手計17名が来日し、10月1日に帰国するまで福岡高や湘南校舎などで多彩なプログラムを実施しました。本学は、東西冷戦時代から東欧諸国と学術・文化・スポーツを通じた民間交流を実践し、多くの柔道選手を受け入れてきました。2019年度には付属高校の生徒8人と引率教員2人が海外柔道研修団としてポーランドで開かれたワルシャワオープン国際柔道大会に出場し、アウシュヴィッツ強制収容所跡を見学するなど交流を深めてきました。今回は、ポーランド関係者に玄海旗への参加を打診し、ロシアのウクライナ侵攻を受けて避難していた選手3名を含むチームの来日が実現しました。
福岡高では16日に歓迎会が開かれ、チアリーディング部の演技のほか、吹奏楽部の演奏に乗せて隣接する付属自由ケ丘幼稚園の年長園児がダンスを披露。津山憲司校長は英語でウクライナ侵攻への思いと見舞いの言葉を述べ、「滞在中は柔道だけでなく、たくさんの日本文化に触れ、多くの友達をつくってください」と語りかけました。選手団の代表3人も登壇し、両国について紹介。昼食後は授業を見学して生徒たちとも交流し、柔道の授業や部の練習にも参加した後、夜は部員の家に宿泊しました。翌日からは大牟田市・三池炭鉱宮原坑の見学や宗像市長への表敬訪問、柔道部の選手たちとともに市内を見学し、剣道部の練習にも参加しました。23日の玄海旗(男子5人制団体)では、大会副会長の山下泰裕副学長が、「遠いヨーロッパから参加していただいた選手、関係者を心より歓迎したい」とあいさつ。また、松田邦紀ウクライナ駐箚特命全権大使から寄せられた祝辞も披露されました。松田大使は本大会への感謝を述べるとともに、「スポーツに国境はありません。皆さん自身が、国際交流の主役であり、ひいては、ポーランドとウクライナと日本の将来の架け橋になってもらいたいと思います」と参加者へメッセージを送りました。選手団は予選リーグで1勝1敗となり、トーナメント進出は逃しましたが奮闘しました。翌24日には福岡高で全日本柔道連盟による柔道教室が開かれ、付属第五高校(現・福岡高)、東海大学卒業生でアトランタオリンピック金メダリストの中村兼三氏(全日本柔道連盟)がコーディネーターを務め、世界選手権金メダリストの穴井隆将氏(天理大学柔道部監督)と東京オリンピック金メダリストの新井千鶴氏(三井住友海上)が、県内外の中学生や選手団に内股や背負投の技術を伝授。午後はグローバルアリーナで本学男女柔道部部長の中西英敏教授(体育学部)による柔道クリニックを実施しました。
選手団は25日に東京へと移動し、26、27日は東京研修として浅草などを見学しました。28日には湘南校舎を訪れ、国際学部国際学科1年次生の授業に参加。吉川直人副学長(国際担当)による選手団の紹介に続き、スポーツ・サイコロジストのアガタ・マチョウスカさんが母国ポーランドについて講演しました。アガタさんは、ウクライナから避難している人々に対する語学の習得や就職支援、教育といった将来を見据えた物心両面にわたるサポート体制と、支援の際に留意している事項について説明。また、ポーランドの地勢や経済、教育、スポーツの現状も紹介し、「いかなる状況においても国際交流は大切です。こうした機会をいただき感謝します」と結びました。続いて、小山晶子教授が司会を務め、選手団にインタビュー。さらに、学生と選手団の間で、大学での学びや若者に人気のカルチャーなどについて質問を交わしました。
午後には、体育学部の内山秀一学部長から激励を受けた後、山田清志学長を表敬訪問。内田晴久副学長、杉一郎副学長、吉川直人副学長も同席し、一行を歓迎しました。山田学長は、「ウクライナの人々は大変困難な状況にありますが、危機的な状況は永遠に続くわけではなく、私たちは紛争終結後に向けての準備も整えていかなければなりません。どうか、私たちを忘れないでください。私たちも皆さんを忘れません」と語りかけました。続いてウクライナ人のキリル・ダシュティンさんが母国に伝わる「平和の歌」を披露。これに応えて、山田学長がキリルさんに、詩人・谷川俊太郎の絵本『へいわとせんそう』を贈りました。
選手団はその後、本学の体育施設を巡りながらラグビーフットボール部、女子ハンドボール部、サッカー部、男女バレーボール部の練習を見学し、男女柔道部の練習を見学するため武道館に向かいました。男子柔道部の練習では、本学卒業生でオリンピック金メダリストのベイカー茉秋選手(リオデジャネイロ大会/2016年度卒)とウルフアロン選手(東京2020大会/21年度卒)がサプライズで登場し、選手団から大きな拍手が起こりました。両選手の得意技を披露してもらった後、選手団全員が2人との乱取りに挑戦。終了後には、一人ひとりが両選手から金メダルをかけてもらい、記念撮影しました。
サプライズ柔道教室を企画した竹内徹師範(スポーツプロモーションセンター)は、「大変な状況にあるウクライナの選手らを励ましたいと、金メダリスト2人が駆けつけてくれました。私も思いは同じです」とコメント。ベイカー選手とウルフ選手は、「柔道にも未来にも夢と希望をもってくれたらうれしい」「少しでも元気を出して笑顔になってもらえれば」と話していました。また竹内師範は、事故で杖や車いすの使用を余儀なくされているポーランドのルーカス・ヴィリツキーさんに、自身の名前入りの柔道衣を贈って激励。ルーカスさんは、「いつかこの柔道衣を着て再び道場に立ちたい」と目を輝かせていました。
翌29日にも湘南校舎で国際学部の学生やスチューデントアチーブメントセンター「Beijo Me Liga」のメンバー、地域住民らと交流。浴衣の着付け体験や書道などを楽しみました。また、武道館では男子柔道部副監督の井上康生教授(体育学部武道学科)が理事長を務めるNPO法人「JUDOs」の主催による柔道教室も実施され、井上教授がシドニー五輪など世界の大舞台を制してきた内股を伝授。19年度のポーランド研修に参加した付属校出身の柔道部員らが相手役を務め、技をかけるタイミングや足さばき、相手のバランスの崩し方などを丁寧に教えると、選手たちは真剣な表情で稽古に臨んでいました。「国際情勢は厳しく、子どもたちにも我々には想像もできないようなさまざまな苦労があると思いますが、そのような中にあっても、今回は楽しく柔道に親しんでもらいたい。柔道を通した仲間がいると感じとってもらい、いい思い出として残ってくれれば」と井上教授。ウクライナ出身のロスティスラフ・カルニクさんは、「2日間にわたって東海大学や柔道部の皆さんと交流し、学生の皆さんがとてもフレンドリーで大好きになりました。将来の夢は黒帯を締めてオリンピックに出場し、プロのコーチになることですが、大学生になったらぜひ東海大学に来て学びたい」と目を輝かせていました。
一行は翌30日に千葉県勝浦市の国際武道大学を訪問。10月1日に成田空港から帰路につきました。